COVID-19 に関する覚書 / 個人的 memo 210428~


1.感染の動態を表す用語

日本内科学会雑誌 109 巻 11 号より

鈴木 絢子 西浦 博

●基本再生産数 (RO)

感染者がいない集団に一人の感染者 Aが加わった場合に、Aが作り出す二次感染者数の平均値 1以上で感染は拡大し、1以下で終息に向かう

(※ COVID-19 の場合 2.5 とされている)

●実行再生産数 (Rt)

(すでに感染者が存在すると考えられる空間において)対策実行下における再生産数

基本再生産数が2.5とし,感染症流行開始から3カ月目に外出自粛の介入を行った場合を考えてみる. 60%以上接触を減少させることができた場合には,式(4)からわかるように,実効再生産数は 1 以下となり,感染の流行は速やかに収束に向かうことがわかる.

●スーパー・スプレッダー

ウイルスを多量に拡散させる人

「ほとんどの感染者 (80%)は二次感染者を生み出しておらず,一部の感染者 (20%)がスーパー・スプレッダーとなり,多くの二次感染者を生み出している。」

※ スーパー・スプレッダーになりやすい要因 →「高齢」「肥満」「感染後7日前後」

※ 変異ウイルス (N501Y など) ではスーパー・スプレッダーの割合はもっと高くなっている。

【NOTICE】

「無症候者や軽症患者が多く,重症度にかかわらず,多数の二次感染者を発生させていることが感染制御の難しい要因の1つである」

「閉鎖空間に密集して集まるような環境が観察データから明らかになっており,このような環境を徹底して避けることで流行を抑えることが可能な感染症でもある」

●世代時間

一次感染者の感染から二次感染者が感染するまでの期間

感染症の拡がりを特徴づける重要な指標

実際の感染イベントは通常観測することが難しく,一次感染者の発症時刻から二次感染者の発症時刻の時間間隔を意味する発症間隔(serial interval)で近似されることが多い.

●発症間隔

COVID-19 では発症間隔が平均 4.8 日(95%信用 区間:3.8,6.1),標準偏差は 2.3 日(95%信用 区間:1.6,3.5)9)と推定されている.

●潜伏期間

発症前から感染性を持つ場合,発症間隔は潜伏期間より短くなる.新型コロナウイルスの潜伏期間の推定値は平均 5.6日であり,発症前から感染性を持つことが疫学モデルを用いた研究でも示されている.

●発症前感染

COVID-19 では,発症前から二次感染者を発生させていることが指摘されているが,発症間隔と感染から 発症までの期間を表す潜伏期間(incubation period)の関係を考えることで実証可能である.

●SIRモデル

人から人へ直接伝搬する感染症の流行動態を捉えた基本的な数理モデル

感染症数理モデルの基礎となる.

●SEIRモデル

SIRモデルに,感染してから感染性を持つまでの感染性待ち時間(latent period)の状態(exposed)を加えたモデル


2.関連法規

●新型インフルエンザ等対策特別措置法

解説

2021年2月13日改正・施行

●感染症法

解説

2021年2月13日改正・施行

●検疫法


3.感染状況の4段階

各地の感染状況 5つの指標より

  • ステージ1

    感染ゼロ散発段階/感染者が散発的に発生

  • ステージ2

    感染漸増段階/感染者が徐々に増加、医療提供訂正への負荷が蓄積

  • ステージ3

    感染急増段階/感染者が急増、医療提供体制に支障

  • ステージ4

    感染爆発段階/爆発的な感染拡大が起き、医療体制が機能不全に

●ステージ判断の5つの指標

  1. 医療のひっ迫具合/1)病床使用率 2)入院率 3)重症者用病床の使用率
  2. 療養者数
  3. PCR検査の陽性率
  4. 新規感染者数
  5. 感染経路が不明な人の割合

4.集団免疫

●集団免疫

人口の一定以上の割合が免疫を持つことで感染の流行が収束している状態

ワクチンが行き渡り、抗体保有者が一定数に達することで実現可能になる場合がある。

新型コロナウイルスのワクチンについては、集団免疫の効果が得られるかは不明とされている。

●集団免疫閾(しきい)値

ある集団で感染が広がらないために最低必要とされる抗体保有者の割合

COVID-19 の集団免疫閾値は、一般的には 0.5 ~ 0.7 とされている。

集団免疫閾値とは、流行中の実効再生産数が1を下回る(=新規感染者が減少に転じる)ことにつながる累積免疫保持者の比率であって、1つの流行を通じた累積感染者数の比率ではない。」(西浦博)

抗体保有率 < 累積感染者数(抗体の維持期間・獲得率が影響する)

東京都の抗体保有率 / 厚生労働省発表値 (2021年2月5日) = 0.91%(抗体検査による。対象は3.399人)

東京都の陽性率 = { 累積陽性者数(感染者数) / 136,426人 (2021年4月27日) } ÷ { 人口 / 13,960,236人 (2021年1月推計) } ≑ 0.97%(2021年)

●集団免疫閾値の計算方法

1 − 1 / RO (基本再生算数)

COVID-19 の場合

1 - 1 / 2.5 = 0.6

(※ COVID-19 の RO 値については諸説あり)

【NOTICE】

「集団免疫閾値に達しても散発的な感染は続く。」

「基本再生産数を基にした集団免疫閾値によって感染が収束するというのは、クローズドな集団における大規模流行の話であって、外と開かれたオープンな状況では話は変わってくる。」

「(ワクチン接種により)多くの国において集団免疫を達成する必要がある。」

(西浦博)

●集団免疫と抗体

COVID-19 における抗体の性質についての研究(東京大学 / 日本医療研究開発機構 2021年2月12日)

「新型コロナウイルス感染時に獲得されたウイルスに対する抗体は少なくとも発症後3~6か月間は維持される」

政府の見解

「新型コロナワクチンによって、集団免疫の効果があるかどうかは分かっておらず」


5.日本の感染状況

新型コロナウイルス国内感染の状況(東洋経済オンライン)

  • 検査陽性者数(累計)
  • 死亡者数(累計)
  • 致死率(死亡者数累計/検査陽性者数累計)
  • 重症者数(最新)
  • 入院治療等を要する者(最新)
  • 重症者割合(重症者数/要入院治療者数)
  • 実効再生産数(最新)

病床使用率(NHKニュースサイト)

チャートで見る日本の感染状況(日本経済新聞)


6.ワクチン

【 ファイザー製ワクチンの効果、まとめ】

 山中伸弥先生のサイトより(210627)

  1. 従来型に対して二回接種で 90% 程度の感染予防効果と、40〜 50% の二次感染減少効果。

  2. アルファ型変異株に対しても従来型と同程度の高い効果がある。

  3. 2回接種のデルタ型に対する感染抑制効果は79%と、アルファ型に対する92%の効果と比べると少し低いものの、依然として高い効果がある。

  4. デルタ型変異ウイルスによる入院を、2回接種後は96%、1回接種でも94%、減少させた。

  5. 2回接種の発症予防効果がアルファ型変異に対しては93.4%であったのに対して、デルタ型変異に対しては87.9%であった。

  6. 1回接種のみの発症予防効果は、アルファ型とデルタ型に対して、それぞれ51.1%と33.5%。

  7. 2回接種した人における中和抗体(ウイルスの感染を抑える抗体)の量は、従来型のウイルスに比べるとアルファ型に対しては2.6分の1に低下、デルタ型に対しては、5.8分の1。

  8. 従来型ウイルスに対しては1回接種でも多くの人で十分な量の中和抗体が出来るが、デルタ型に対しては2回接種が必要。

  9. 重症化を防ぐ効果は、変異の種類に関わらず97.4%と非常に高い効果。

●ワクチン開発の初期の目的/重症化予防 → 結果として発症・感染予防にも奏功

ファイザー、1回だけでは変異株に対して不十分

2020年4月30日 イギリスでの医療関係者に対する追跡調査。したがって検体数は少ない。

イギリスは、出来るだけ多くの国民にまず1回接種することを2回接種よりも優先する方針を取った。

効果あり「ファイザー社製ワクチンの1回接種により、接種後28から34日目の入院者数が約90%減少した/21日目以降、仮に新型ウイルスに感染したとしても、家庭内での2次感染が40から50%減少した」

モデルナ 、3回目接種で変異株に対する抗体増加

2021年5月5日 被験者40人の暫定データ。

●日本国民の「これまでのワクチン総接種回数」ほか

「新型コロナワクチンについて」首相官邸の最新総合情報サイト。

・ファイザー製ワクチンの正式販売名「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2) コミナティ筋注」

・接種費用/¥2070円 / 1回(事務費¥180含む) → 全額国が負担

・用 語

遺伝子ワクチン/遺伝子そのものを使用するもの。(mRNA ワクチン/ファイザー、モデルナ DNAワクチン/阪大などが開発中)

ウイルスベクターワクチン/ベクターにmRNAの一部であるS蛋白質の遺伝子を組み込んであるもの。(アストラゼネカ)

【NOTICE】

アストラゼネカのワクチンは、2回目以降の接種は効果がない。(2020-11-25 日本医事新報社)

ただし1年間くらいは抗体がもつと言われている。


7.インフルエンザとのちがい

日本では、季節性インフルエンザによって毎年10,000人程度の死者が出ているので、COVID-19 の危険性はインフルエンザと同等程度かそれ以下だとされることが多い。

が、実際には次のような特質によりインフルよりはるかにリスクが大きいことが知られている。

COVID-19 の特質(インフルエンザと比較すべき点)

  1. 感染性が強い
  2. 治療が困難なウイルス性肺炎を引き起こす
  3. 致死率が高い(特に西洋で)
  4. 急速に悪化する危険
  5. 重症化すると通常の数倍の医療資源が必要となる → 重症化対応による医療崩壊
  6. 感染連鎖を把握しにくい
    • 理由-1 無症状でも感染力がある
    • 理由-2 発症まで時間がかかる
    • 理由-3 感染を広めるのは感染者の5人に1人である
  7. 現状では感染予防・治療に有効なツールが限られている
  8. ウイルスの活動に明らかな季節性は見られない
  9. 次々に変異株が出現している

したがって、COVID-19 の危険性を、死亡者数・重症者数だけをインフルエンザと単純比較してインフルエンザと同等程度であると判断することは誤りである。

 

  • ★インフルエンザで医療崩壊が起きたことはない。
  • ★インフルエンザは発症してから感染力を持つので対策が容易。
  • ★インフルエンザによる死亡者の多くは肺炎や既往症の重症化による関連死である。
  • ★インフルエンザワクチンは、重症化防止には一定の効果が認められているが、感染予防効果は十分に認められていない。(ワクチンが誘導する抗体の力が弱い)

 

参 考:国立感染症研究所発表資料

参 考:新型コロナウイルス感染症の感染性(国立感染症研究所) ほか


8.SARS-COV-2 / COVID-19 あれこれ

●無症状・軽症であっても感染者をふやしてはいけない理由

  1. 感染連鎖の広がりによって重症化リスクが大きい人に感染しやすくなる
  2. 感染をくり返すことで、より感染性・病原性(増殖力)が強いウイルスへ変異する可能性が高まる
  3. 医療資源にかける負荷が増大する

COVID-19 の行方

「4種類の風邪コロナウイルスも確実に過去のどこかの時点でヒトの世界に入ってきた。

今回と同じようなことが人類の歴史の中で4回起こっているわけです。

過去にどういう惨状が繰り広げられたのかわかりませんが、おそらく何も起こらなかったのではないかという見方があります。

なぜかというと、今回と同じく高齢者でしか重症化しないとしたら、その時代には65歳以上の高齢者はほとんどいなかったから。」

(松山州徳 2020-12-24 日本医事新報社)

癌についても同様の話を聞いたことがある。


9.デルタ株(インド株改め)変異ウイルス

特  徴

  1. 「二重変異株」である(「L452R」と「E484Q」の変異)
  2. 日本人の60%がデルタ株に対して免疫低下の可能性
  3. 日本人の60%が持つ白血球の型* が作る免疫細胞から逃れる(「免疫逃避」)

  4. 感染力がアルファ株(イギリス株)と同等程度の可能性 → 感染力がアルファ株の1.5倍 = 従来株の2.25倍(※ 8/5 現在 未確定)
  5. 潜伏期間が短い
  6. 急激に重症化(感染から3〜4日)

 ※ 注)白血球の型はいわゆる「血液型」ではない。

★インドから帰国・無症状だった男性、一週間後に死亡

★日本人がデルタ株に対して免疫が弱い場合、これまでの感染対策だけでは不十分だと思われる。

★ファイザー社は、同社製のワクチンはデルタ株に対しても有効と発表

★感染者が多いほど、新たな変異株が出現する可能性は高い

  → ワクチンが効かない変異が起こる懸念

  → 「ジャパン株」の出現もあり得る